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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)1247号 判決 1954年10月22日

主文

本件各上告を棄却する。

当審における訴訟費用中国選弁護人馬場東作に支給した分は被告人染谷三郎の負担、国選弁護人関屋延之助に支給した分は被告人岡田順市を除くその余の被告人等の各負担とする。

理由

弁護人塚本義明の上告趣意について。

第一点は、本件詐欺罪の被欺罔者を原判決の如く競輪関係の係員ら及び多数投票者であるとすれば、本件の八百長競技によって係員らが欺罔される時及びその錯誤の内容と、多数投票者が欺罔される時及びその錯誤の内容とは相異なるにかかわらず、漫然と両者を併挙し「欺罔し因って」と判示したのみで錯誤の内容を明示しない第一審判決を肯認した原判決には理由不備の違法があり、引用の大審院判例に違反するというにある。よって按ずるに、本件の如く競輪選手が他の選手(又は第三者)と通謀して実力に非ざる競技をなすいわゆる八百長レースにより賞金及び払戻金を受領する行為は刑法の詐欺罪を構成するものというべく、而して詐欺の実行の着手は八百長レースを通謀した選手らがスタートラインに立った時であり、その既遂時期は通謀者が賞金、払戻金を請求しこれを受領した時と解すべく、また詐欺の被欺罔者は競輪施行者及びその実施を担当する自転車振興会の各係員ら(本件では賞金支払係岐阜市主事及び岐阜県自転車振興会の審判員、管理部員ら)であり、その錯誤の内容は右係員らがそれぞれ本件八百長レースを公正なレースの如く誤信したことであり、詐欺の被害者は、賞金が施行者の財源(賞典費の項目)から支出されること及び払戻金は車券購買代金から支出されるけれども、右購買代金は車券発売と同時に施行者に帰属する事実に鑑み、施行者たる岐阜市であると解すべきものである。原判決が肯認した第一審判決も、その事実及び証拠理由を通読すれば右の趣旨を判示したものと解することができる。従って原判決及び第一審判決が多数投票者をも詐欺の被欺罔者と解する如く判示した点は誤りであるけれども、多数投票者が公正なレースが行われたものの如く誤信したことは、本件詐欺罪の成否にかかわりない事実であるから、第一審判決がこれを判示したからといって被告人の刑責に消長はなく、なんらの違法はない。従ってこれを肯認した原判決はなんら所論の判例と相反する判断をしたものではない。

同第二ないし第四点は法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人鍛冶利一、同塚本義明の上告趣意について。

第一点及び第三点は憲法違反を主張するけれども、その実質は単なる法律違反の主張に帰し、第四点は違憲をいうけれども原審において主張せず従ってその判断を経ないところであり、第二点は事実誤認、第五点は量刑不当の主張であって、いずれも同四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人山口好一、同馬場東作の各上告趣意について。

所論はいずれも事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって同四〇五条の上告理由に当らない。

その他記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三九六条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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